「それは嫌だ」
「今日はできない」
「そういう言い方はやめてほしい」
勇気を出して、自分の境界線を言葉にした。
ところが返ってきたのは、理解でも話し合いでもなく、怒り、逆ギレ、無視、不機嫌だった。
そんな反応をされると、こちらは一気に不安になります。
「言い方が悪かったかな」
「こんなことくらい我慢すればよかったかな」
「私がわがままなのかな」
そして、せっかく伝えた境界線を自分から引っ込めてしまう。
でも、ここにはとても大事なポイントがあります。
あなたが境界線を伝えたことと、相手がそれを気に入らないことは、別の問題です。
境界線とは、「相手を思い通りにするためのルール」ではありません。
「私はここまでならできる」
「これはされたくない」
「これは引き受けない」
という、自分がどうするか、自分をどう守るかを示す線です。
ところが、それまであなたが我慢することで成り立っていた関係では、境界線を示した途端に相手が強く反発することがあります。
なぜなら、相手からすると、それまで普通に得られていたものが突然得られなくなるからです。
いつでも話を聞いてもらえた。
頼めばやってもらえた。
怒れば折れてもらえた。
不機嫌になれば機嫌を取ってもらえた。
その関係に「ここから先はできません」という線が入る。
すると相手にとっては、あなたが変わったように見えることがあります。
そもそも境界線とは何か、基本から確認したい方は、境界線を引こう。|合わない人から、あなたを守る「心の線」も参考にしてください。
「前はしてくれたのに」は、境界線がおかしい証拠ではない
境界線を引き始めると、こんなことを言われることがあります。
「前はそんなこと言わなかった」
「最近冷たくなった」
「そんな人じゃなかった」
「急に自分勝手になった」
これを言われると、かなり揺れます。
でも、「以前は我慢していた」という事実と、「これからも我慢し続けなければならない」ということは同じではありません。
昨日まで許していたことを、今日から断ってもいい。
以前はできたことでも、今はできないと言っていい。
人の限界も、状況も、気持ちも変わります。
境界線は、一度決めたら一生変更できない契約ではありません。
逆ギレは「境界線を撤回しろ」という圧力になることがある
あなたが「嫌だ」と伝えたとき、相手が怒鳴る。
「じゃあもういい!」と極端なことを言う。
こちらの問題点を突然並べ始める。
こうなると、本来話していたはずの「私はこれをされたくない」という話が消えてしまいます。
気づけばこちらが、
「そんなつもりじゃなかった」
「ごめん」
「怒らせるつもりはなかった」
と説明する側になっている。
そして最後には、境界線そのものを撤回してしまう。
このパターンが繰り返されると、あなたの中にある学習が起こります。
「嫌と言うと大変なことになる」
だから次からは、言わないほうが楽になる。
これが、境界線を引けなくなっていく大きな理由のひとつです。
「嫌」と言うこと自体が怖くなっている場合は、境界線を引くのが怖いのはなぜ?|嫌われる・関係が壊れると感じてしまう理由でも詳しく解説しています。
無視や不機嫌も、こちらを動かす力になる
怒鳴らなくても、境界線に抵抗する方法はあります。
急に口をきかなくなる。
ため息をつく。
露骨に機嫌が悪くなる。
冷たい態度を取る。
するとこちらは、その場の空気に耐えられなくなります。
「もういいよ、私がやるから」
そう言った瞬間、相手の機嫌が戻る。
もしこれが繰り返されているなら、あなたはいつの間にか、相手の不機嫌を終わらせるために自分の境界線を差し出すようになっているかもしれません。
ここで覚えておきたいことがあります。
相手が不機嫌になる自由はあります。
しかし、
その不機嫌をあなたが解消しなければならない義務はありません。
境界線を伝えた「その後」が本当の実践になる
「嫌」と言えるようになることは、とても大切です。
でも境界線の実践は、そこで終わりではありません。
むしろ難しいのは、その後です。
相手が怒ったとき。
無視したとき。
不機嫌になったとき。
あなたを責めてきたとき。
そこで、自分が伝えた境界線をどう扱うのか。
相手の反応を見て、また元の場所まで引っ込めるのか。
それとも、相手の感情と自分の境界線を分けて考えるのか。
次の後編では、逆ギレ・無視・不機嫌・罪悪感を煽る言葉に対して、実際にどう対応すればいいのかを具体的に見ていきます。
相手が怒ったとき、まず「説明を増やしすぎない」
境界線を伝えて相手が怒ると、私たちはつい説明を増やしてしまいます。
「違うねん、そういう意味じゃなくて」
「あなたが嫌いだからじゃなくて」
「今日は本当に疲れていて……」
もちろん、必要な説明をすること自体が悪いわけではありません。
ただ、説明すればするほど相手が納得するとは限りません。
境界線は、相手を完全に納得させて初めて成立するものではないからです。
たとえば、
「今日はできない」
これだけで、本来はひとつの意思表示です。
理由を説明してもいい。
でも、その理由を相手が「十分な理由だ」と認定してくれなければ断れないわけではありません。
境界線を短く伝える具体的な方法については、実践!境界線の伝え方|「嫌」「できない」を相手にどう伝える?で具体例を紹介しています。
逆ギレされたときは、元の話に戻す
境界線を伝えると、話をすり替えられることがあります。
「お前だってこの前○○したやろ」
「自分のこと棚に上げて何言ってんの?」
「じゃあ俺ももう何もしない」
こうなると、こちらも反論したくなります。
でも、そこで別の問題に乗ってしまうと、最初の境界線が消えてしまいます。
そんなときは、話を戻します。
「その話は必要なら別で話そう。今は、私はこれをされたくないという話をしている」
全部の攻撃に答えなくていい。
相手が投げてきたボールを、全部拾う必要はありません。
不機嫌になっても、すぐに機嫌を取りに行かない
これはかなり難しいところです。
相手が黙る。
顔つきが変わる。
ため息をつく。
空気が重くなる。
すると、こちらの身体が先に反応することがあります。
「やばい」
「なんとかしなきゃ」
そして、頼まれてもいないのに説明したり、謝ったり、境界線を撤回したりする。
でも、一度ここで立ち止まります。
「この人はいま不機嫌なんだ」
まずは、それだけ。
「だから私が悪い」まで一気につなげないことです。
相手の感情は相手のもの。
あなたの境界線はあなたのもの。
この二つを分けることが、境界線を守るうえで非常に重要になります。
断ったあとに「私が悪かったかな」と苦しくなる場合は、境界線を引くと罪悪感が出るのはなぜ?|「私が悪いのかな」と思ってしまうあなたへも参考にしてください。
「冷たい」「わがまま」と言われたら
境界線を引き始めた人が、とても揺れやすい言葉があります。
「冷たい」
「わがまま」
「思いやりがない」
「自分のことしか考えてない」
こう言われると、優しい人ほど境界線を引っ込めたくなります。
でも、相手が不満を感じていることと、あなたの境界線が間違っていることは同じではありません。
たとえば、
「そう感じるんだね。でも今日はできない」
「嫌な気持ちになったことは分かった。でも、このことについて私の答えは変わらない」
このように、相手の感情を否定せず、自分の答えも撤回しないという対応があります。
同じことを何度も説明しなくていい
一度伝えた境界線を、相手が何度も交渉してくることがあります。
「なんで?」
「ちょっとくらいいいやん」
「今回だけ」
「普通それくらいするやろ」
そのたびに新しい説明を考えていると、いつの間にか「相手を納得させるゲーム」になります。
そんなときは、答えを変えずに繰り返しても構いません。
「できないよ」
「さっき伝えた通り、今回はしないよ」
「答えは変わらないよ」
短くて大丈夫です。
境界線は、長く説明したほうが強くなるわけではありません。
境界線を守らない相手には「行動」を決める
そして、ここがとても重要です。
境界線は、相手への命令ではありません。
「怒鳴らないで」と伝えても、相手が怒鳴ることはあります。
そのとき必要になるのは、
「怒鳴るなと言ったでしょう!」
と相手をコントロールし続けることではなく、
「怒鳴られたら私はどうするか」
を決めることです。
たとえば、
「怒鳴られている間は話を続けない」
「その場を離れる」
「落ち着いてから話す」
というように、自分の行動を決める。
これが、境界線を「お願い」だけで終わらせないための大切な部分です。
境界線を引いたとき、関係の姿が見えることがある
境界線を伝えることで、関係がぎくしゃくすることはあります。
でも、それは必ずしも「境界線が関係を壊した」という意味ではありません。
それまで見えなかった関係の形が、境界線によって見えることがあります。
あなたが「嫌」と言っても話し合える人なのか。
あなたが断っても尊重できる人なのか。
それとも、あなたが従わなければ関係を維持しようとしない人なのか。
境界線は、人を遠ざけるためだけの線ではありません。
お互いが無理をせず関係を続けられる場所を確認する線でもあります。
まとめ|相手の反応まで背負わなくていい
境界線を伝えたとき、相手が怒ることはあります。
無視することも、不機嫌になることもあります。
でも、その反応をすべてあなたが処理しなければならないわけではありません。
あなたが考えるべきなのは、
「どうすれば相手を怒らせないか」だけではなく、
「相手がどう反応しても、私は自分をどう守るか」
ということ。
境界線を伝える。
相手が反応する。
それでも、自分の線を必要以上に引っ込めない。
ここまでできて初めて、境界線は少しずつ「自分を守るもの」になっていきます。
そして次に問題になるのが、何度伝えても境界線を越えてくる相手に、どう対応するのかということです。
次回は、「伝えても守られない境界線」をテーマに、さらに一歩進んで考えていきます。
何度「嫌」と伝えても同じことを繰り返される場合は、境界線を越えてくる人の特徴|何度「嫌」と言ってもやめてくれないのはなぜ?もあわせて読んでみてください。



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