ムービング・ザ・ゴールポストとは?
ムービング・ザ・ゴールポスト(Moving the Goalposts)とは、相手が条件を達成したあとで、基準や要求を変え、新しい条件を追加することです。
直訳すると、「ゴールポストを動かす」という意味です。
サッカーで、ゴールを目指して一生懸命走っているのに、ゴールへ近づくたびに、そのゴールを遠くへ動かされたらどうでしょう。
どれだけ走っても、たどり着けません。
「ここまでできたら認める。」
「これを直したら文句は言わない。」
そう言われて頑張ったのに、達成した瞬間、また別の条件を出される。
そして、いつまでたっても「できた」と認めてもらえない。
まるで、ゴールのない課題を与えられ続けているような状態です。
頑張って達成しても、次の課題が出される
例えば、家事について不満を言われたとします。
「部屋が散らかっている。」
そう言われたため、一生懸命片づけました。
すると、次は、
「片づけただけで、家事をしたつもりなの?」
と言われます。
そこで料理も頑張ります。
すると、
「料理をするのは当たり前でしょう。」
「品数が少ない。」
「栄養を考えていない。」
と言われます。
品数を増やすと、今度は、
「食費を使いすぎ。」
と言われます。
節約すると、
「いつも同じ料理で飽きた。」
と言われます。
言われたことを一つずつ改善しているのに、合格にはなりません。
達成するたびに、新しい課題が追加されるからです。
問題を解決することが目的ではなく、「まだ足りない」と言い続けることが目的になっている場合、どれだけ頑張っても終わりは来ません。
「それができたら文句は言わない」と言ったのに
ムービング・ザ・ゴールポストでは、最初に示された条件が、あとから変わることがあります。
例えば、
「もっと働いて収入を増やしてほしい。」
と言われたため、仕事を増やしたとします。
すると、今度は、
「仕事ばかりで家のことを何もしていない。」
と言われます。
家事の時間を増やすと、
「収入が少ない。」
と言われます。
どちらを選んでも、不満を言われる。
何かを改善しても、「でも、こっちはできていない」と別の問題を出される。
その結果、
「もっと頑張れば認めてもらえるかもしれない。」
「次こそ満足してくれるかもしれない。」
と、さらに努力するようになります。
しかし、ゴールそのものが動き続けているなら、努力だけでたどり着くことはできません。
褒められると思ったら、「当たり前」と言われる
頑張って条件を達成しても、その努力を認めてもらえないことがあります。
「部屋を片づけたよ。」
「家族なら、それくらい当たり前でしょう。」
「資格を取ったよ。」
「取っただけで、まだ何もしていないでしょう。」
「仕事で昇進したよ。」
「もっと上の人もいるでしょう。」
「今日は全部の家事を終わらせたよ。」
「毎日やって初めて普通でしょう。」
どれだけ頑張っても、
「すごいね。」
「頑張ったね。」
「ありがとう。」
とは言われません。
代わりに、できていない部分や、次にやるべきことを指摘されます。
すると、達成した喜びを感じる前に、
「まだ足りない。」
「もっと頑張らないと。」
と思うようになります。
できなければ責められ、できても認められない
このような関係では、どちらを選んでも否定されることがあります。
- 働かなければ、「もっと働いて。」
- 働けば、「家のことをしていない。」
- 節約しなければ、「無駄遣いが多い。」
- 節約すれば、「生活に楽しみがない。」
- 自分で決めれば、「勝手に決めるな。」
- 相談すれば、「それくらい自分で考えて。」
- 黙っていれば、「何を考えているか分からない。」
- 意見を言えば、「文句ばかり言う。」
何をしても、あとから別の基準を出される。
そのため、少しずつ、何を選べば正解なのか分からなくなります。
「どうすれば怒られない?」
「何をすれば認めてもらえる?」
そう考え続けるようになり、自分がどうしたいかより、相手の評価を優先するようになることがあります。
しかし、基準がその時々で変わるなら、正解を探し続けても見つかりません。
ゴールが動き続けると、自信を失っていく
最初は、「次はもっと頑張ろう」と思います。
でも、何度頑張っても認められない状態が続くと、少しずつ自信を失っていきます。
「私は何をしても足りない。」
「私には何もできない。」
「もっと努力しないと愛されない。」
「私がちゃんとできないから、相手が不機嫌になる。」
そう思うようになることがあります。
しかし、本当にあなたの努力が足りないのでしょうか。
昨日言われたことを達成したのに、今日は別の条件が追加されていないでしょうか。
できたことは無視され、できていないことだけを探されていないでしょうか。
一つの課題を終えた瞬間に、別の課題を渡されていないでしょうか。
もしそうなら、あなたがゴールへ進めていないのではなく、相手がゴールを動かしている可能性があります。
要求が変わることすべてがモラハラではありません
人の考えや状況は変わります。
最初に決めた条件を見直したり、新しい問題に気づいたりすることもあります。
そのため、要求や目標が変わっただけで、すぐにモラハラや心理操作だと決めつけることはできません。
大切なのは、変わった理由を話し合えるかどうかです。
健全な関係では、
「前はこう言ったけれど、状況が変わったから相談したい。」
「ここまでしてくれてありがとう。でも、新しい問題が出てきたから一緒に考えたい。」
と、相手の努力を認めたうえで話し合います。
一方、ムービング・ザ・ゴールポストでは、達成したことを認めず、最初から条件が違っていたかのように扱ったり、新しい不満を出して相手を不合格にし続けたりします。
目標を一緒に見直すことと、相手を永遠に合格させないことは違います。
「もっと頑張れば」は、本当にゴールへ近づいている?
何度も新しい課題を出されると、
「あと少し頑張れば認めてもらえる。」
「次こそ満足してくれる。」
と思うことがあります。
しかし、一度考えてみてください。
- 最初に言われた条件は、達成できましたか。
- 達成した時、その努力を認めてもらえましたか。
- 新しい条件は、あとから追加されませんでしたか。
- 以前できなかったことを改善しても、別の欠点を探されませんでしたか。
- どれだけ頑張っても、最後は「まだ足りない」で終わっていませんか。
もし、条件を達成するたびに新しい条件が追加されているなら、「もっと頑張ること」だけでは解決しない可能性があります。
ゴールが遠いのではありません。
あなたが近づくたびに、ゴールが動かされているのかもしれません。
ムービング・ザ・ゴールポストとブレイムシフティング
ムービング・ザ・ゴールポストは、ブレイムシフティング(責任転嫁)と一緒に起こることがあります。
例えば、
「もっと家事をしてほしい。」
と言われて家事を増やしたのに、
「家事だけしていればいいと思っているの?」
と言われる。
そして、
「いつも私が怒るのは、あなたが気を利かせないから。」
と、相手の不機嫌や怒りまで、こちらの責任にされます。
条件を変えて「まだ足りない」と評価し続ける。
さらに、その不満や怒りの原因まで相手へ移す。
この二つが重なると、責められた側は、
「もっと頑張らなければ。」
「私がちゃんとすれば、相手も怒らなくなる。」
と思いやすくなります。
▶ モラハラ用語|ブレイムシフティングとは?|悪いのは、いつも自分以外
ムービング・ザ・ゴールポストに気づいたら
「何をしても認めてもらえない」と感じた時は、自分の努力が足りないと決めつける前に、条件が変わっていないかを確認してみてください。
例えば、最初に言われたことと、その後に言われたことを簡単に記録してみる方法があります。
- 最初に求められたことは何だったか。
- 自分は何を改善したか。
- 達成した時、相手は認めたか。
- あとから新しい条件が追加されたか。
- 以前の努力を「当たり前」と無かったことにされていないか。
記録することで、
「私が何もできていないのではなく、条件が変わり続けていた。」
と気づくことがあります。
また、話し合える相手であれば、
「最初の条件は達成したと思う。新しい問題は別の課題として話したい。」
「あとから条件を変えられると、何を目指せばいいか分からなくなる。」
と伝える方法もあります。
しかし、何を伝えても基準を変え続け、努力を認めず、責めることが繰り返される場合は、相手から合格をもらうことだけを目標にしないことも大切です。
あなたの価値は、誰かがその時々で決める合格ラインによって決まるものではありません。
まとめ
ムービング・ザ・ゴールポストとは、相手が条件を達成したあとで基準を変え、新しい条件を追加し続けることです。
片づけたら、次は料理。
料理を頑張ったら、次は節約。
節約したら、「楽しみがない。」
働いたら、「家のことをしていない。」
家事を優先したら、「収入が少ない。」
どれだけ頑張っても、合格にならない。
そして、また新しい課題が出される。
そんな状態が続くと、
「私がもっと頑張れば。」
と思うかもしれません。
でも、本当に努力が足りないのでしょうか。
あなたがゴールへ近づくたびに、そのゴールが動かされていないでしょうか。
ゴールが動き続ける課題に、合格はありません。
いつまでたっても認められない時は、自分の努力だけではなく、「基準そのものが変えられていないか」を見てください。
あなたは、誰かに合格をもらうためだけに生きているのではありません。
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